近年はさまざまな種類の保険があり、被害の種類や程度によって、それぞれカバーする範囲が決まっています。地震の被害に遭った際にも、地震保険で補償されるものとされないもの、保証される程度があります。
この記事は地震保険の補償の対象と範囲について解説します。いざという時の備えを充実させるための参考にしてください。
地震保険とは?
地震保険は損害保険会社が火災保険の付帯商品として販売するもので、単独ではなく火災保険とセットで契約します。
火災保険とセットとなっている理由は、冒頭にご説明した「保険ごとのカバー範囲」が関係しています。火災の原因はさまざまですが、火災保険はすべてを保障できません。そこで地震が原因で起こった火災は、地震を補償するのが役目の地震保険のカバーする範囲となります。
家財の損害も、地震に起因する場合は地震保険の範囲です。火災保険と地震保険のカバーする被害原因の違いは以下です。
災害 | 災害によって起こる被害 | |
---|---|---|
地震保険 | ・地震 ・津波 ・噴火 | 火災・爆発・損壊・埋没・流失など |
火災保険 | ・地震由来以外の火災 ・台風や雷なども対象となっていることが多い | 火災・破裂・爆発・損壊・埋没・流失・盗難など |
こうして見ると、火災保険のほうがカバーする内容が豊富で、地震保険は地震に特化した補償を行うことが分かります。
地震保険と火災保険の関係がこのようになっている背景には、ひとたび大地震が起きると、地震保険単独で、非常に大きな補償を行う必要がある点に関係があります。
地震保険の公的性格
地震保険は、いつ起きてもおかしくないといわれる大震災に備えて、全損害保険会社と国が共同運営しています。
地震保険の運営には、被災者の方が大量に生じた場合でも、極力公平に多くの方の生活を支えるという、公共の福祉の観点が背景にあります。たとえば民間保険会社の責任範囲を超えて引き受けきれない地震に見舞われても、政府が再保険(保険会社の保険を引き受ける)を行う仕組みです。
被災者の方を公平に救済するために、1回の震災に伴う地震保険の給付金が総支払限度額(現在12兆円に設定)を超えた場合は、給付金の割合を減らして対応します。しかしこれまでの災害で、この総支払限度額を超えた例はありません。
地震保険制度の概要|財務省
地震保険はどこまでの被害が補償される?
地震保険では、損害の程度によって全損・大半損・小半損・一部損の4段階の区分けを行います。そして、それに応じて給付金が支払われます。
地震保険の被害対象について、以下の項目を解説します。
- 地震による建物・家財の損害
- 地震の揺れによる建物の損害例
- 地震の揺れによる家財の損害例
- 地盤液状化による建物の損害例
- 津波による建物の損害例
- 津波による建物の損害の基準
地震による建物・家財の損害
地震によって建物・家財の損害があった場合、決められた損害区分に該当する給付金が支給されます。
被害の程度と補償度合いの関係性を示す損害区分は以下です。
建物 | 家財 | ||||
---|---|---|---|---|---|
損害の程度 | の損害部分 | 主要構造部損傷・焼失・流出 した部分 | 給付金の割合 (地震保険金・時価額) | 家財の損失額 | 給付金の割合 (地震保険金・時価額) |
全損 | 時価額の 50%~ | 延床面積の 70%以上 | 100% | 時価額の 80%以上 | 100% |
大半損 | 時価額の 40%~50% | 延床面積の 50%~70% | 60% | 時価額の 60%~80% | 60% |
小半損 | 時価額の 20%~40% | 延床面積の 20%~50% | 30% | 時価額の 30%~60% | 30% |
一部損 | 時価額の 3%~20% | 20%未満 給付なし | 5% | 時価額の 10%~30% | 5% |
主要構造部とは、基礎、柱、壁、屋根等のことです。
小半損にまで至らない建物でも、床上浸水か地盤面から45cmを超える浸水で損害を受けた場合は一部損に区分されます。
地震の揺れによる建物の損害例
地震の揺れによる建物の損害は、「主要構造部の損害の割合」か「焼けたり壊れたりしてしまった部分の割合」の、被害の大きいほうを基準にして、損害の程度の区分の4段階を決定します。
建物をチェックして区分の判定を行う際に重要なのは、クラック(ひび割れ)です。
建物に大きな損壊がない場合でも、基礎部分のコンクリートに大きなクラックが数本あるだけで、保険では一部損認定とされることがあります。
クラックの大きさも判定基準となり、幅0.3mm・深さ5mm以上のひびを構造クラックといいます。また、それよりもひびが細い・浅いものをヘアークラックと呼び分けて基準とします。
地震の揺れによる家財の損害例
家財の被害の判定は、ひとつずつの判定と集積では無理があり、時間もかかりすぎます。以下に大きく分類の上、それぞれの分類の損傷状況を合計して家財全体の損害とし、「全損」から「一部損」までの4段階の判定を行います。
- 食器類
- 電気器具類
- 家具類
- 身回品その他
- 寝具・衣類
たとえば地震保険の設定で家財の給付金額設定が最大500万円であったとして、小半損の判定となった場合は上の表にしたがい、30%の150万円が給付されることになります。
地盤液状化による建物の損害例
地盤液状化で生じた被害は、建物の傾きと沈み具合で認定されます。
全損扱いとなる約1度の傾きは、1メートルで1.7センチメートルの高低差なので、はっきり体感できるレベルの傾斜です。また、30センチメートル沈んだ建物は、上下水ほかライフラインすべての配管に支障をきたした状態でしょう。建物の傾きや沈みは、ジャッキアップの施工で修正ができる場合と、できない場合があります。
地盤液状化による建物の損害の基準は以下の通りです。
損害の程度 | 認定の基準 | 給付金の割合 |
---|---|---|
全損 | 傾斜が1.7/100(約1°)超か、最大沈下量が30cmを超える | 100% |
大半損 | 傾斜が1.4/100(約0.8°)超、1.7/100(約1°)以下か、最大沈下量が20cm超、30cm以下 | 60% |
小半損 | 傾斜が0.9/100(約0.5°)超、1.4/100(約0.8°)以下か、最大沈下量が15cm超、20cm以下 | 30% |
一部損 | 傾斜が0.4/100(約0.2°)超、0.9/100(約0.5°)以下か、最大沈下量が10cm超、15cm以下 | 5% |
液状化に伴う損害は、家財には適用されません。また、揺れによる損壊等と液状化による被害を併せての認定はできません。
津波による建物の損害例
津波で生じた被害は、床上からの浸水高か、地盤面からの浸水高で認定されます。
全損扱いとなる地盤面から225cm以上の浸水は、昭和時代の一般的な木造建築では1階の天井高を超える高さです。そして近年の1階天井高の基準は230~240センチで、やはりほぼ天井に達する高さになります。
生活の拠点が1階のみの平屋建ての建築物の場合は、全損の基準がかなり低く145cmに設定されています。
床上浸水の修理は、築年が新しめの家屋のほうがコストと手間を要する場合が多く、床板、壁の石膏ボードなど、水に浸かった部分は交換となります。また、冷蔵庫はその内部の構造上、一度浸水したものは使えません。
津波による建物の損害の基準
損害の程度 | 認定の基準(平屋) | 認定の基準(平屋以外) | 給付金の割合 |
---|---|---|---|
全損 | 100cm以上の床上浸水か、地盤面から145cm以上の浸水 | 180cm以上の床上浸水か、地盤面から225cm以上の浸水 | 100% |
大半損 | 75cm以上100cm未満の床上浸水か、地盤面より80cm以上145cm未満の浸水 | 115cm以上180cm未満の床上浸水か、地盤面より160cm以上225cm未満の浸水 | 60% |
小半損 | 75cm未満の床上浸水か、地盤面より45cm以上80cm未満の浸水 | 15cm未満の床上浸水か、地盤面より45cmを超えて160cm未満の浸水 | 30% |
一部損 | 基礎の高さ以上の浸水を被った場合で全損・大半損・小半損に至らないとき | 基礎の高さ以上の浸水を被った場合で全損・大半損・小半損に至らないとき | 5% |
津波の損害も、家財には適用されません。また、津波の損害と、揺れによる損壊・液状化による被害を併せて認定することはできません。
地震保険の請求については、以下の記事もご参照ください。
対象とならない損害は?
地震保険では補償の対象となる建物や家財の損害でありながら、補償されないケースがあります。
まず被害の程度が「一部損」以下と判定されると、免責となり補償が受けられません。
また、一度「全損」と認定された場合、補償に関する契約はその損害が生じた時で終了するため、それ以降に発生した地震等での損害は補償されません。
このほか、補償対象外に対する基本原則には、以下のようなものがあります。
地震保険はあくまで地震が理由で起きた損害のためのものです。したがって放火や台風、落雷が原因で受けた被害は火災保険の補償対象です。
地震がきっかけで治安が乱れた結果でも、家財や現金の紛失または盗難によって生じた損害は、もとの存在や盗難の事案の立証が困難なため、保険で補償されません。
また、火災保険では補償される外構は、地震によって生じた外構のみの被害は対象外です。同様に住居ではなく車庫や、事業用の箇所に発生した損害、営業用設備・什器も対象外です。
家財については、1点で30万円を超える貴金属、価値判定の困難な骨董や稿本、設計書、図案、証書、帳簿なども補償されません。現金や書類は、耐火金庫などに収めておき、汚損などしていても存在が確認できれば、あとで再発行や交換が可能になるでしょう。
これは補償される?されない?
地震保険で請求可能かどうかを、具体例でご覧ください。
事例 | 補償の有無 |
---|---|
地震の揺れで住宅の壁にひびができた | △ 主要構造部の3%以上の場合 |
地震による火災で住宅が全焼 | 〇 火災保険のみの加入ではNG |
噴火による溶岩で住宅が滅失 | 〇 |
津波で住宅が流された | 〇 |
地震による地盤液状化で住宅が傾いた | △ 一定以上の傾きや沈みの場合 |
地震発生から12日目に住宅が倒壊した | × 最初の地震発生から10日目まで (別の地震の影響なら補償されることも) |
地震による山崩れで住宅が倒壊した | 〇 |
地震の揺れで門と塀が壊れた(住宅には被害なし) | × 外構は対象外 |
津波で自家用車が損壊した | × |
被害のあった留守宅で家財が盗まれた | × 盗難被害は対象外 |
被災時の補償額を増やす方法
地震保険はその公共的な性格から、各社ほぼ一律の補償内容で、かつ複数の会社に重複して加入することで補償を厚くはできないようになっています。しかし以下の方法で補償を増やすことができます。
オプションで補償を増やす
地震保険で支払われる給付金は、原則である最大で火災保険金額の50%を超えたオプション設定が可能で、オプション部分は各社で加入条件がやや異なっています。
大手損保各社の追加補償内容をご覧ください。
あいおいニッセイ同和損保 | 保険期間の途中でも地震保険の給付金額を増額可能。 住まいの火災保険の保険金額の30%~50%の範囲内で、建物5,000万円、家財1,000万円が限度。 |
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ソニー損保 | 上乗せ特約で最大100%カバー可能。 地震保険の保険金額を火災保険金額の50%に設定した場合のみ設定可能。 |
東京海上日動 | 「地震危険等上乗せ補償特約」:地震・噴火またはこれらによる津波による損害に対して最大100%まで補償。 ※支払限度額=地震保険金額の上限で契約の必要あり。 ※上乗せ補償特約は「トータルアシスト超保険」加入が条件。ただし保険期間は2年以下。 |
三井住友海上 | 地震等を原因とする火災で建物が半焼以上、または保険の対象の家財が全焼した場合などに、保険金額の5%を地震火災費用保険金として給付。 ※1回の事故につき、1敷地内ごとに300万円が限度 |
損保ジャパン | 「地震危険等上乗せ特約」:地震保険とセットで加入することで最大100%の補償。 ※THE すまいの保険ベーシック(Ⅰ型)加入 ※保険期間は1年のみ ※地震保険を限度額まで付帯する場合のみ |
地震補償保険の加入
また、地震保険との重複加入で補償を増やすことが認められる少額短期保険「地震補償保険」で、追加補償を得られる方法もおすすめです。
地震補償保険は火災保険に入らずに単独での加入も、地震保険の追加補償を得ることも可能な、柔軟な位置づけの保険です。
地震補償保険の例
SBI損保 | 保険料は月額1,210円からで、補償額300万円から900万円の5タイプ。 |
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イオン銀行 | 月額1,680円から、全壊の場合の給付金300万円。Web申し込みが可能。 |
被災者生活再建支援制度の利用
被災時に地震保険以外の補償を受けられる「被災者生活再建支援制度」という公的制度があります。
災害時に都道府県から制度適用の公示がされることで利用対象となります。そしてこの給付も地震保険と重複して利用が可能です。この制度では最大300万円の給付が受けられます。
公的制度は専門家のアドバイスがない場合、知らないままで終わることも多いです。被災した際は、自治体の公示に注目しましょう。
専門家に頼る
地震保険の申請の際には、申請サポートで専門的なサポートを受けるのがおすすめです。地震保険の審査は年を追って厳格化されています。したがって専門家のサポートの有無で、補償内容に差が出ることもあります。
また、災害に乗じて詐欺のような話で、被災者に高額な請求を行う人がいないとも限りません。少なくとも以下の点でサポートを受けておけば、安心です。
- 現地調査
- 契約者ご本人が行う行程の助言
- 保険申請のための書類作成の手助け
被災現場の危険防止や、正しい補償、迅速な申請を進めるために、いざという時にサポートを受けるよう、事前に検討することをおすすめします。
保険の補償内容は修復ナビに相談しよう
地震保険の補償の対象と範囲について解説しました。
地震保険の位置づけは、他の損害保険とは少し性格が異なり、地震の大規模災害で多数のご家族を対象に生活を支えるという側面があります。しかしそのような中でも、極力厚い補償が得られるようにつとめたいものです。
火災保険申請サポートは地震保険の請求にも対応しており、地震保険の依頼の際も、火災保険申請が可能な箇所がないかも調査を受けられます。
専門的なアドバイスによって申請の可否や、給付の金額に差が生じます。いざという時に備え、補償内容についてもLINEでお気軽にご相談ください。
滋野 陽造
執筆者
保有資格:宅地建物取引士 賃貸不動産経営管理士
経歴:早稲田大卒。マスコミ広報宣伝業務・大手メーカー等のWebディレクターを経て、不動産関連業に従事。法令に則しながら、時流や現状も踏まえた解説をします。